グローバル・コンパクト研究センターロゴ ごあいさつ GC基本文書 研究員一覧 English

HOME
研究計画
研究・調査活動
研究成果
リンク

Quarterly Report
HOME < 研究成果 < GCRC Quarterly Vol.3

GCRC Quarterly Vol.2 (2016年3月)

グローバル・コンパクト研究センター研究員 / 菅原 佑香


はじめに
若者はなぜ3年で辞めるのか?」このフレーズを耳にして10年以上経過していますが、未だ若者の高い離職率は問題となっています。近年の若者の離職の背景は、以前と比べて傾向が変わってきているように思います。そこで、国連グローバル・コンパクトの定める4分野(人権、労働、環境、腐敗防止)10原則の中で、今回は「人権」、「労働」の原則に焦点をあてて考えてみたいと思います。

1.若年層の就職活動の変化と高い離職率
さて、2017年3月卒業の大学生から、就職活動の時期が再び大きく変化します。企業の採用活動は8月から6月に早まり、選考開始活動の始期がずれ込むことになります。それによって、企業が学生の採用のために用いることのできる時間は非常に短期間となり、企業の採用活動が厳しくなる可能性が示唆されています。そのため、就職までのプロセスにおいて、若者は企業への志望理由を考え、仕事に対する高い意識を持つことを求められるようになっています。また、学校側ではこうした状況に対応するためのキャリア教育という言葉を、頻繁に耳にするようになっています。その結果、学生の就業に対する意識として「自分の能力、個性が活かせるから」が(30.9%)「仕事の面白さ」(19.2%)や「専門能力」などを求める傾向が高まっています(日本生産性本部(2015))。
しかし、そういった就業意識の高さに関係なく、入職後に与えられる仕事内容は、若者の希望から大きく乖離している可能性があります。近年の若者は、こういった就職活動のプロセスを経ることによって、就業意識がより研ぎ澄まされ、現実とのギャップをより大きく感じてしまうのではないでしょうか。久木元(2011)は若者の過半数が将来の先行きを暗いと見ていることを指摘しています。雇用が不安定な今日において、正社員就業をしている若者は一見恵まれた層であるとも言えるでしょう。しかし、そうした彼らも漠然とした先行きの不安感を持っているのではないでしょうか。

2.若年層の先の見通せない不安感と就業継続
「先が見通せない」意識を規定する要因は、菅原(2015)によれば、男女では異なる傾向があるようです。また、職業生活上での悩みを抱いていることは、先の見通しを悪化させるとともに、同一企業での就業継続意欲を低下させていることが分析の結果明らかにしています。そして、女性より男性の方が、職業生活上で具体的な悩みを抱えていることとこの先の見通しとの関連があることが分かっています。それにも関わらず、男性の方が、同一企業に勤め続ける意志があるということから、女性は、家庭を中心にする選択肢があることや昇進が一定のラインまでしか見込めないといった雇用慣行の影響から、男性ほど仕事への悩みを深めないのかもしれません。若年層が抱いている先の見通せない不安感は、職場に内在する労働条件や雇用慣行に加え、仕事の仕組みや育成の仕方など様々な要因によって高まっているものではないでしょうか。

3.若年正社員の苦悩とは
先の見通しが暗いと感じながらも働き続ける若者の悩みは深く、企業側は彼らの悩みに向き合っていくことが必要なのではないでしょうか。入社後、忙しさに追われ仕事の全体像がつかめないまま、先の見通しが持てず、かといって、より良い転職の機会も持てずに、勤め続けている悪循環があるのではないでしょうか。また転職という選択が、長期雇用を前提とした日本では、非正規就業に陥る可能性を高めることから、不満があっても企業内にとどまる意向を持っているのかもしれません。
企業も社員育成のための取り組みを行っていないわけではありませんが、仕事に悩みを持ち続ける若年正社員が相当数いることが分かっています。先の見通しがつかぬまま、仮に長時間労働の生活を続けているならば、就業意欲の低下、更には、離職の決断となってもおかしくありません。それでは、こうした若者が将来の先の見通しが持てるようにするためには、どうしたら良いのでしょうか。

4.若年正社員に対する今後求められる企業側の対応とは
男性の場合は、ロールモデルとなるような先輩や上司の存在が、先の見通しを明るくしています。また、業務を単に経験させるだけではなく、職場の中で仕事の意義や背景をつかめるような仕事の与え方をおこなうこと、上司や先輩とのコミュニケーションがとれるような職場であることが必要でしょう。彼らが自力で考えて行動することを求めるにせよ、道標となるような入口を作り、相談できる窓口や機会を設けておく必要はあるのではないでしょうか。一方、女性に関しては、男性よりも仕事に悩みを持つ層が少なく、不満があっても続けようと思う層も男性より低い傾向にあります。これは女性の場合、家庭を中心とした生活を考えているせいなのか、男性とは異なるキャリアの見通しを持っているからなのかもしれません。しかし、企業において女性の長期的なキャリアは設定されておらず、職場で相談出来るような先輩社員の存在がないことに問題があるのではないでしょうか。つまり、女性活用を推進し、職場の中での女性比率を高め、女性のキャリア育成支援をより図っていくということは今後より一層求められると思います。
特に、女性の活躍推進に積極的に取り組む企業の行動原則として、女性のエンパワーメント原則(以下、WEPs)があります。WEPsを用いることで、企業の社会的責任(CSR)がより活発に他社と比較する指標として高まってくるでしょう。
企業の成長見通しがやや鈍化し、他方で若者が仕事内容によりこだわるようになり、さらには若者が非正規に陥りやすい今日において、若者の悩みに注目し有効な取り組みを検討し、彼らの人的資本の拡充を探ることは今後、非常に重要な問題となるでしょう。企業にとっては、GC10原則の人権および労働の分野の取り組みの一つとしても位置づけられます。

【参考文献】
久木元真吾(2011)「不安の中の若者と仕事」日本労働研究雑誌No. 612、16-28頁
日本生産性本部(2015)「平成27年働くことの意識」調査結果
菅原佑香(2015) 「若年正社員の先の見通しと就業継続意欲――若年者のキャリア意識に着目して――」生活経済研究第41巻、77-87頁




COPYRIGHT © 2008-2021,Global Compact Research Center.All Rights Reserved